ご夫婦は、以前、代々住み続いてきた古くてとても大きな民家に住んでいました。しかし、やむ得ない事情により、その土地を離れなければならなくなりました。当初、以前の住まいで使われていた古い建具や框などを使った、新しい住まいへ移る計画でしたが、新しい住まいを作った人達にそれらは使う事が出来ないと拒否されてしましました。そして、その後、古い建具達は何十年も倉庫に眠ることになりました。ただ、ご夫婦は決して建具の事を忘れてはいませんでした。
何十年も暮らすうちに不便になってきた家のリフォームです。既存建物は、3階建ての混構造で、居間を含む一部分のリフォームを依頼されました。既存の間取りは、南側に居間、客間、キッチンと3室が有り、廊下を挟んで北側に洗面所・浴室などの水廻りがありました。廊下の幅は1メートル、全体から考えるとかなりの面積を取っていました。キッチンは、個室となっていて、使いにくそう
でした。
新しいプランでは、客間、居間、キッチンの3室を1室として、キッチンは、オープンキッチンにしました。さらに、無駄に広い廊下は、部屋の中に取り込み3室+廊下をワンルームとしました。しかし、廊下も部屋の中に取り込んだ為、廊下を通って仏間へ訪れる来客は居間の中を通る事になってしまいます。そこで、廊下部分を仕切る建具を用意し、来客時には、居間の一部を通路にする事が出来る様にしました。床はウォールナットフローリングを使用し、また、部屋の一部に、3帖の畳スペースを作り畳でもくつろぐ事が出来る空間としました。畳スペースの下は、引き出しになっていて、様々な物を収納をする事が出来ます。また、畳スペースの横にはTV台と続く形でPCコーナーを設けています。
倉庫に眠っていた材料は、格子の建具、ケヤキの框、ケヤキの棚板。これらの材料を無駄なく使用する事にしました。まず、格子の建具は、廊下を仕切る建具としました。ケヤキの框は、畳スペースの角の柱としました。棚板は、ベンチ、棚、机、引き出しになりました。TV台の下とキッチンバックガードには、唐長の唐紙を使用しています。家具の面材にはチーク材を使用し、枠材はタモ材としました。南側のアルミサッシには、床から天井までの障子を取り付けています。
建主が何十年も大切に保管し、思い続けてきた材料を全面的に使用する事ができました。これらの材料を見るだけで当時を振り返ることができ、また、新しい場所での思いもこの材料達に重ねていければと良いと思っています。