MORIMURA ATSUSHI ARCHITECTS 1101-2-21-1,Tomigaya,Sibuya-ku Tokyo,151-0063 JAPAN Tel +81-03-3468-0544 e-mail m-archi@coral.ocn.ne.jp

 

 江戸時代、主な交通手段は徒歩だった。その人々が歩く為の街道は、その時代の中心で、街道に沿って店が出来き、家が出来き、そして街へと発展していった。しかし時代と共に交通手段が発達し、街道はその役割を終え、街へ埋没していく事になった。

 

 旧街道が通る街にこの家は建っています。この地域は新防火地域に指定され、木造2階建て住宅でも防火基準が厳しい準耐火建築物の仕様を要求されます。そのため主要構造部の柱や梁を現して使いたい場合は、防火の為の工夫が必要となります。今回は2階の丸太の梁を室内に現したデザインとする為に、燃え代設計を使い設計しました。燃え代設計とは、火災で木材が一定時間燃えても建物が崩れ落ちたりしない様に、あらかじめ燃える部分を見越して太くしておく考え方です。燃え代設計で使うための木材にはいくつかの条件があり、基本的には製材された木材を対象にしてルールが作られています。元々想定されていない丸太の梁で、その条件をクリアする材を探す為、全国から情報を集め、最終的には、島根県の地松の太鼓梁を採用しました。

 

 この家の構成としては、リビングダイニングキッチンが2ヶ所、水廻りが1ヶ所の半2世帯住宅となっており、その他寝室と子供部屋があります。

 

 この家は、敷地の廻りに家やマンションが建っており、道路からの距離もあまりとる事が出来なかった為、外部に向けて開放的な家にはしづらい環境に建っています。そこで、リビングダイニングは小屋裏を現した天井高さの高い空間とし、上部への抜けを作り、囲まれた環境でも開放的な雰囲気にしました。また、少しでも広く感じさせるために、階段室側へ木の格子の入ったハメ殺しガラスを設置し、空気の流れを遮断しつつ、視線を伸ばしています。また、暗くなりがちな北側にリビングを配置した為、日差しを取り入れる為にハイサイドライトを設置しています。

 

 家の中には玄関を始め各所に古建具を使用し、1階リビングの襖紙、2階トイレの竹ルーバー天井や小石の入った土間、2階手洗いスペースの柄入りの円形モザイクタイルなど個性ある素材を家の中に配して、暮らしに彩りを与えています。

 リビングダイニングは全てタタミ敷きにしました。ただし利用頻度と耐久性を考えて、あえて本物の畳ではなく、紙で出来た耐久性のあるタタミを使用しました。畳本来の匂いこそしませんが、見た目はかなり本物に近い感じになっています。キッチン側はフローリングを敷き、立って使用できるように1段下げて設計しています。ダイニングテーブルは造り付けとし、甲板には厚み45mmのナラのハギ材を使用しました。厚みがある為、かなり迫力のあるテーブルになっています。

 

 外観は、木材を使用しつつ壁を濃い色で吹付をしているので、木の質感が引き立っています。大きな庇を張り出し、全体的な形はオーソドックスでありながら、機能性とシャープな雰囲気を持っています。また、1階ダイニングの前は塀で囲み坪庭としました。この庭は玄関からも眺める事が出来る様に設計しています。

 

 この歴史ある街に、イサムノグチがデザインした大きな提灯が下がるリビングを持つ、新築なのに古民家の雰囲気を持つ住宅が出来上がりました。

歴史ある街道沿いの街に建つ、提灯のある住まい。